機械翻訳の仕組みとは?歴史・種類と併せて解説

【種類別】機械翻訳の仕組み
ルールベース機械翻訳(RBMT)
ルールベース機械翻訳(Rule-Based Machine Translation:RBMT)は、あらかじめ用意した言語ルールや辞書データをもとに文章を翻訳する方式です。例えば主語・述語・目的語などの文法構造を分析し、対象言語の語順に再構成して翻訳します。
文法が整った文章は高精度に翻訳できますが口語や曖昧な表現には弱く、訳文が硬くなりがちです。ルールや辞書のメンテナンスが煩雑なため、現在ではほとんど利用されていません。
統計的機械翻訳(SMT)
統計的機械翻訳(Statistical Machine Translation:SMT)は、大量の対訳データから単語やフレーズの対応関係を学習し、最も出現頻度の高い訳を統計的に選んで翻訳する方式です。
専門分野のデータがあればRBMTよりも自然な翻訳ができる点がメリットですが、学習データの量と質によって品質が左右され、未知表現や文脈理解に弱いというデメリットがあります。
ニューラル機械翻訳(NMT)
近年主流となっているニューラル機械翻訳(Neural Machine Translation:NMT)は、ニューラルネットワークと呼ばれる人工知能の仕組みを使って文全体の意味や文脈を把握し、より自然で流暢な翻訳文を生成するという方式。従来の統計的機械翻訳(SMT)と比べて語順や文脈の理解に優れており、高品質な翻訳が可能です。
一方で、モデルの内部処理が「ブラックボックス」化していて翻訳の根拠が把握しづらいという側面があります。これによって稀に訳抜けや原文にない内容(いわゆるハルシネーション)が出現するリスクがあるのがデメリット。また、学習データに含まれない固有名詞や専門用語の訳出にも課題があります。
仕組みと合わせて知っておきたい機械翻訳の基礎知識
機械翻訳(MT)とは?
機械翻訳(MT)は、人間ではなくコンピュータプログラムが文章を他言語へ自動翻訳する技術のこと。手作業による翻訳とは異なり、入力された文章を瞬時に別の言語に変換できます。
「Google翻訳」や「DeepL」などが代表的なサービスで、ブラウザやスマートフォンアプリを通じて利用可能です。近年ではAI技術が用いられるケースも増え、翻訳の精度は飛躍的に向上しています。
しかし、現状はまだ文化的な背景や細かなニュアンスの表現は苦手なため、必ずしも完璧な翻訳ができるわけではありません。
機械翻訳の歴史
機械翻訳の研究は1930年代に始まり、RBMT→SMT→NMTの大きな転換点を経て進化しました。
まず1950年代にあらかじめ策定した文法ルールと辞書に基づく「ルールベース機械翻訳(RBMT)」が登場。仕組みは比較的単純でしたが、ルール化が難しい表現や曖昧な言い回しには対応できませんでした。
1980年代後半には「統計的機械翻訳(SMT)」が登場。大量の対訳データを統計的に分析し、単語やフレーズの対応関係や出現確率を学習して翻訳する方式です。ルールの整備が不要で自動化が進んだ反面、文脈の理解が難しく、文法構造が大きく異なる言語同士ではぎこちない訳文になるケースも多く見られました。
2010年代に入ると、現在の主流である「ニューラル機械翻訳(NMT)」が登場。人間の脳の神経回路を模倣したニューラルネットワークを活用し、文章全体の文脈を捉えて翻訳を行う方式です。翻訳の流暢さと精度が飛躍的に向上し、機械翻訳が日常生活からビジネスシーンにまで広く普及する原動力となりました。
機械翻訳のメリット
スピードが早い
機械翻訳の大きなメリットの一つは翻訳スピードです。人が翻訳すると数ページの文書でも数時間から数日かかるケースもありますが、機械翻訳を使えば数秒から数分で翻訳が完了します。
以下のようなさまざまな状況で力を発揮してくれるでしょう。
- 大量の情報を迅速に処理する必要があるビジネスシーン
- リアルタイム性が求められる海外ニュースの読解
- 旅行中のコミュニケーションなど
コストを安く抑えられる
翻訳を専門の翻訳会社やフリーランス翻訳者に依頼する場合、文字数・対応する言語のペア・専門性の高さなどに応じて高額な費用が発生します。
Google翻訳やDeepLといった多くのツールが無料で提供されている機械翻訳であれば、有料プランでも月額数百円〜数千円と比較的低コストで利用が可能。無料版は文字数や回数に制限がある場合もありますが、分量が多すぎず、日常的な用途であれば十分役割を果たしてくれるでしょう。
有料プランを利用した場合でも、人力による翻訳と比べて圧倒的にコストを抑えられます。翻訳の頻度が高い業務や大量の文書を扱う場面では、コスト削減効果がさらに大きくなるでしょう。
知識が無くても手軽に利用できる
機械翻訳を利用するのに特別な語学知識や専門的なスキルはほとんど必要ありません。翻訳アプリやウェブサービスを開いて、翻訳したい文章を入力またはコピー&ペーストし、翻訳元と翻訳先の言語を指定するだけで簡単に利用できます。誰が利用しても一定の翻訳精度が期待できるため、従業員の語学スキルにバラつきがある場合も翻訳業務の負荷軽減や品質アップに役立つでしょう。
専門家でなくても手軽に多言語の壁を越えられる点は、機械翻訳の大きな魅力です。
機械翻訳のデメリット
訳文が不自然になることがある
ニューラル機械翻訳(NMT)の登場により翻訳精度は飛躍的に向上していますが、完璧ではありません。
特に言語が持つ独特のニュアンスや文化的背景に基づいた表現、皮肉やユーモアといった感情表現などは正確に汲み取れない場合があります。文法的には正しくても、不自然な言い回しや意図が正確に伝わらない訳文が出力されるケースがあるのです。
専門用語に弱い
医療・法律・IT・金融などの専門分野で使われる専門用語や業界特有の言い回しには機械翻訳が正確に対応できない場合があるため、注意が必要です。
その理由のひとつに、機械翻訳が学習している文章の多くが日常的な内容や広く使われている文章であることが挙げられます。専門用語の出現頻度が低いため、誤った訳語を当ててしまったり意味が通じない翻訳になったりするリスクがあるのです。
専門性の高い文書を機械翻訳で処理する場合は、その分野に精通した人による校正や修正が欠かせません。
セキュリティ面で注意が必要
多くの機械翻訳サービスはクラウド上で動作しているため、入力した情報がサーバーに送信され、記録される可能性があります。利用規約の内容によっては、翻訳精度の向上を目的として入力データが再利用される恐れもあるでしょう。そのため、企業の機密情報や個人情報、未公開情報などを安易に翻訳すると、意図せず情報漏洩に繋がるリスクが生じるのです。
重要な情報を扱う場合はデータの取り扱いに関する利用規約を必ず確認し、セキュリティが確保された有料ツールや外部サーバーにデータを送信しないオンプレミス型の翻訳システム導入の検討が必要になります。
機械翻訳の仕組みで精度は保てる?
機械翻訳と人間による翻訳の使い分け
機械翻訳と人間翻訳にはそれぞれ得意分野と限界があるため、翻訳内容や目的に応じた使い分けが大切です。
社内資料や概要把握などの平易な内容を短時間で大量処理したい場合は、機械翻訳が向いているでしょう。例えば海外ニュースの速読や多数の問い合わせメールの一次スクリーニングなどで役立ちます。
一方、契約書・マニュアル・マーケティング資料・学術論文など、高い精度と正確性、そして文化的な背景やニュアンスの理解が求められる文章は、人間による翻訳が依然として望ましいといえます。単語の選び方や表現の微妙な違いは、機械では判断しきれないことがあるためです。
機械翻訳の結果を人間が編集・校正する「ポストエディット」という手法もあるため、用途や予算に応じて使い分けて翻訳の質を保つようにしましょう。
迅速に高品質な翻訳をするなら
機械翻訳は日々進化していますが、それでも細かなニュアンスの表現・専門性の高い分野・情報の取り扱いには限界があります。このような課題をクリアしつつ迅速かつ高品質な翻訳を実現したい場合は、プロの翻訳会社への依頼が有効な選択肢です。
弊社ケースクエアでは、各分野の専門知識を持つ翻訳者が機械翻訳ではカバーしきれない言語の機微を捉えつつ対応します。また、ネイティブスピーカーによるチェックを加え、より自然で正確な訳文を提供。急ぎの案件に対しても、短納期でのスピード納品に対応できる体制を整えています。
大切なビジネス文書やクリエイティブなコンテンツの翻訳で品質とスピードの両方を求めておられるなら、ぜひ一度ご相談ください。
まとめ
機械翻訳はルールベースから統計的機械翻訳、そして現在の主流であるニューラル機械翻訳へと進化を遂げ、その速さ・低コスト・手軽さから多くの場面で活用されています。
しかし、訳文の自然さや専門用語への対応、セキュリティ面での課題はゼロではありません。翻訳の目的や内容に応じて、機械翻訳と人間による高品質な翻訳を適切に使い分けすることが大切です。
最終的な品質が求められる場合や機械翻訳では対応が難しいケースでは、専門の翻訳会社への依頼が確実な選択肢となるでしょう。
翻訳に関するご相談があれば、一度弊社へお問い合わせください。